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予測姿勢調整能

運動神経の良し悪しが、必要なのは、スポーツや楽器演奏といった高度なスキルが求められる場面ばかりではありません。グラつかづに立ったり、初めの一歩を歩みだして、まっすぐ歩くといった何気ない動きの背後にも、小脳と大脳皮質との連携プレーが、活躍しています。

姿勢維持で、大切な機能の1つに、予測的姿勢調節があります。例えば、机に置いたペットボトルを右手で取って、立ったまま飲む動作について考えてみて下さい。片腕の重さは、約4〜5kg。右腕を前に差し出すだけでも重心の位置は、前になるはずです。



ペットボトルを持つと、更に重心が前に振られます。それでも倒れないのは、腕を伸ばす前に、重心が前へ移動しても平気なように体幹や下半身の筋肉を適度に制御・抑制するからです。これが予測姿勢調節であり、その一連の命令も小脳が深く関わっています。

スポーツでは、ペットボトルを手で取るよりも、遥かに複雑な動作を組み合わせていますので、予測姿勢調節は、一層重要になります。フィードフォワード(予測制御)では、ボールを投げたり、打ったり、蹴ったりする動作の中では、手足が、力を発揮する直前に、体幹が、ガチッと安定します。

これが、フィードフォワード(予測制御)の典型的な例です。体幹が安定してから、手足等への末端へ、鞭をしならせるように、力(パワー:筋力×スピード)を伝えています。


小脳と大脳皮質の連携

小脳は、運動ニューロンの活動を調整していますが、小脳→運動ニューロン→筋肉というルートで、スキルが、発揮される訳では、ありません。隣接する小脳と大脳の大脳皮質は、互いに連絡しあって、情報をやり取りするループがあり、小脳と大脳皮質との連携プレーで運動が行われています。

例えば、記憶されている運動プログラムの実行命令を下すのは、大脳皮質のほぼ真ん中にある一次運動野です。一次運動野は、運動ニューロンと接続しており、筋肉の動きを、ダイレクトに司ります。



さらに、一次運動野の少し前方にある運動前野は、目から入力された視覚情報などを、取りまとめて小脳に伝えています。そしてドリブルをしようか?とか、楽器を、こんな風に演奏しようか?といった運動の実行を最終的に決断しているのは、額の奥にあり、意思決定や価値判断を下す前頭連合野です。

運動神経が、良いというのは、小脳に完成された多くのプログラムがあって、小脳と大脳皮質の連携が、スムーズで、状況に応じた素早い精密プログラムが実施出来る能力のことを指しています。

運動ニューロンの伝達スピードを引き上げることは、出来ません。小脳に多くの運動プログラムをインプットさせたうえで、小脳と大脳の連携によって多彩なプログラムを的確に運用してやると、運動神経が、良いという状態になります。

小脳は、大脳の下部にあって、スキルを内部モデルとしてストックしています。小脳は、大脳皮質の一次運動野、運動前野、前頭連合野とをリンクしています。大脳皮質は、脊髄の連動ニューロンを始めとする各種ニューロンに情報を送っています。


運動神経

筋肉は、脳の命令を伝える運動神経の刺激で動くと表現されていたために運動神経が存在すると誤解されてきましたが、実は、運動神経というものは、存在しません。

運動ニューロンは、脊髄から全身に広がり、末端で枝分かれ(神経終末)し、自らの意思で動かせる骨格筋まで伸びています。それによって、骨格筋は、収縮・弛緩・伸張をコントロール(制御)されています。ちなみに、お腹側を通る服内側系は、体幹。背中側を通る背外側系は、手足動きを制御してます。



身のこなしの巧みさや、スキルの上達に関わっているのは、運動ニューロンではなく、小脳と大脳です。小脳は、大脳の10分の1程なのに、1000億個以上と大脳よりも多くの神経細胞から構成されています。

サッカーや、バスケットボールのドリブル、自転車の乗りこなし、楽器の演奏などの動きは、慣れれば、無意識で動かせますが、姿勢や重心をこまめに制御し、手足を協調してタイミングよく動かす複雑な情報処理が、欠かせません。

小脳には、このデータ処理のプログラムが書き込まれています。脳科学では、小脳に保存されているこれら一連の動きを内部モデルと呼んでいますが、内部モデルが、良し悪しによって、スポーツの上手い下手に別れているのだと思います。


ウサイン・ボルトさんと、イチローさん

例をあげますと、陸上の100m走や走り幅跳では、人が、速く走ったり、遠くに跳ぶ動きでは、スタートからの加速が遅くなりやすいうえ、走っている時の空気抵抗も大きくなるため、190cm台の体格の大きなアスリートは、短距離走や走り幅跳に向かないとされてきました。



例えば、2002年から2017年まで、ジャマイカの元陸上競技短距離選手だったウサイン・ボルトさんは、196cmと長身。下半身が長く、走行時歩幅が2m75cmにも達していたと言われています。

通常は、100mを走り切るのに、45~46歩程度要しますが、ウサイン・ボルトさんは、41歩で、走り切ることが、出来るうえに、頭が、小さいため、空気抵抗を比較的小さく抑えられていると考えられてました。

従来の選手は、レールの上を走るように滑らかに機械的に走ってましたが、ウサイン・ボルトさんは、上半身を揺らしながら走られていました。

身体を揺らして走ると、その振動に対抗するために無駄な力が、必要になると考えられますが、身体の揺れと走る動きのタイミングを一致させることで、揺れが、逆に相乗効果を生んでいたのだと考えられました。



大きな体格のアスリートが、集まる大リーグでは、華奢なイチローさんのようなアスリートが、パフォーマンスによって、神経筋制御により機能性を高めらる可能性を示してくれていました。

身体には、約600の骨格筋があり、人の生理作用と神経反射を、それぞれタイミング良く動かすことが出来れば、人間は、思いも寄らない力を出せる可能性があるということになります。


脊椎α運動ニューロンと筋収縮

一次運動野の神経細胞の興奮によって生じるインパルス信号を、下位の運動系に伝達する皮質脊髄路は、軸索の大部分が延髄で交叉し、対側の脊髄を下行しているため、随意的な筋の活動は、主に対側皮質の神経指令によって調節されることになります。



覚醒状態の人における皮質脊髄路の興奮性は、対側の一次運動野に対する経頭蓋磁気刺激 (transcranial magnetic stimulation: TMS) によって被検筋から生じる運動誘発電位 (motor evoked potential: MEP) の振幅変化によって評価されています(Rothwell et al. 1991; Di Lazzaro et al. 1998)。

被検筋を随意収縮させると、 MEP が、安静時よりも大きくなり、その程度が、収縮強度に依存することが広く知られています (Rothwell et al. 1991; Taylor et al. 1997; Di Lazzaro et al. 1998; Martin et al. 2006)。


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