ホームブログ脳・神経

ブログ

医療保険や介護保険の縮小により、自費リハ・義肢装具開発への期待が高まる

今回の研究で明らかになったシナプス前抑制の運動制御での利用がうまく行われないと、不要な情報処理にエネルギーを使うために疲弊しやすい上に、必要な情報の処理に十分なリソースが割けなくなり、適切で効率的な運動制御ができなくなると考えられます。

これは症状として感覚運動異常を示す疾患のいくつかを共通して説明し、新たなリハビリテーション技術の開発につながる成果にもなります。しかし、医療保険や介護保険が縮小され、自費でリハビリテーションが受けられる施設への期待がかかりますが、シナプス前抑制の運動制御での利用がうまくなる設備や指導法が、従来の運動施設では、確立されていません。



シナプス前抑制の運動制御での効率的な利用は、運動学習によるものである可能性が考えられます。アスリートのトレーニングなどに、シナプス前抑制による感覚増強や減弱の考えを取り入れた訓練方法を開発することにより、従来法では実現できないレベルの競技力向上などが期待されますが、キツい運動だと、怪我や故障の心配が伴いますし、一般の方々が継続して利用するんは、ハードルが高いと思われます。

ヒトの運動をアシストするために開発される様々な機械の開発にも応用が期待されていますが、神経興奮(神経インパルス)を末梢より中枢に上手く伝えられる装置では無いため、求心性神経を傷めたり、疲れやすくなったりするなどの感想も多いのが心配されています。



例えば、交通事故や神経筋疾患などさまざまな理由によって手足の運動機能に障害をもち、義肢装具を利用する方々に対し、生体でのシナプス前抑制の仕組みを義肢装具制御に応用することにより、より本物に近い義肢装具が開発でき、障害を持つ方の生活の質の向上が期待されます。



神経筋制御論に沿った運動法によって生まれた運動器具を応用した「やまおくシューズ」の開発にも成功しました。将来的に義肢装具開発にも力を注ぎ、障害がある無いに関わらず、健康スポーツサービスを受けられるようにして行きたいと思います。


シナプス前抑制の強弱が筋活動の大小を制御

我々運動指導者にとって、シナプス前抑制の変化が、スポーツパフォーマンスや日常生活動作とどのような関係にあるのか?が知りたいですよね。

サルに行わせた手首伸展試行を成功トライアルと失敗トライアルに分類し、各トライアルにおいて動的運動(AM)中に記録された神経終末の逆行性電位(ADV)のサイズと比較されていました。



その結果、ADVのサイズが大きいトライアルは、タスク成功率が高かったことが分かりました。その原因を調べると、ADVの大きいトライアルでは、手首伸筋の活動が有意に大きいことがわかったからだそうです。

つまり、脳はシナプス前抑制の強さを変化させて筋活動の大きさを制御し、それによって手首の運動を巧みにコントロールしていることも分かったのだそうで、D.R.Eマシンで脳卒中による麻痺が残る方々の麻痺改善運動や、子供のかけっこに差異が出る秘密は、シナプス前抑制の強弱と筋活動の大小を制御していることに関係しているのでしょうね。


シナプス前抑制は、筋活動を作り出すのと同等だった…

筋の感覚神経から脊髄への信号伝達が、運動の局面に応じてシナプス前抑制により変化していることが伺えましたが、何が、このようなシナプス前抑制の変化を起こしているのかを解明するため、神経終末の逆行性電位(ADV)の時間変化を詳しく解析されました。

手首伸展時のシナプス前抑制の低下は、筋活動の開始とともに始まり、手首が動き始めた時刻とは関係がないことが分かりました。筋活動の開始は脳からの運動指令の始まりを表し、手首の動きの開始は皮膚や筋の感覚受容器の活動増加の始まりを表します。



つまり今回観察されたシナプス前抑制の変化は、運動の結果として生じる末梢の感覚情報からではなく、筋活動を作り出すのと同等の脳からの運動指令によって引き起こされたということで、脊髄内のシナプス前抑制の調整が脳内の運動指令中枢によって制御されていることが明らかとなりました。

D.R.Eマシンの腕マシンでの反復動作の直後に歩行動作が改善されていたのも伺えますね。


運動の局面に応じたシナプス前抑制の変化

国立精神・神経医療研究センター神経研究所モデル動物開発研究部の関和彦部長と窪田慎治室長は、手首の屈曲伸展運動をするサルの脊髄を対象とした研究では、具体的にサルの手首運動中に固有感覚の神経終末に生じるシナプス前抑制の大きさを測定されました。

情報は神経から神経へと伝達されることで神経系内に広がります。シナプス前抑制が強まることは、信号伝達が抑制されて情報の広がりが抑えられることになり、シナプス前抑制が弱まることは、抑えていた情報が広がりやすくなるということを意味していることは、前述しました。



シナプス前抑制の大きさは、運動中いつも一定なのではなく、位相によって変化していることが観察されました。具体的には、手首伸展時には動的運動(AM)だけで一瞬小さくなり、一方、手首屈曲時には持続的に大きくなることが分かりました。つまり筋肉が活動、すなわち収縮する時には、筋肉の状態に関する信号が次の神経細胞に伝わりやすく、逆に筋肉が引き延ばされる時は、その状態が次の神経細胞に伝わりにくくなっていたということです。

この結果は、筋の感覚神経から脊髄への信号伝達が、運動の局面に応じてシナプス前抑制により変化している証拠であると考えられました。


シナプス前抑制の大きさを観察する

興奮性のシナプス伝達をするシナプス前ニューロンの神経終末部にシナプスを作り、そこからの興奮性物質の放出を減少させて、興奮性シナプス伝達効果を抑制する仕組みをシナプス前抑制と言います。シナプス前ニューロンとは、赤丸のところです。



運動する時に発生する手足の感覚信号が、シナプス前抑制という仕組みによって調節されていて、この調節によって運動が巧みにコントロールされていること、つまり身体運動の制御における感覚情報の役割が、少し解明されたと言うことを前述しました。

国立精神・神経医療研究センター神経研究所モデル動物開発研究部の関和彦部長と窪田慎治室長は、手首の屈曲伸展運動をするサルの脊髄を対象とした研究では、具体的にサルの手首運動中に固有感覚の神経終末に生じるシナプス前抑制の大きさを測定されました。情報は神経から神経へと伝達されることで神経系内に広がります。シナプス前抑制が強まることは、信号伝達が抑制されて情報の広がりが抑えられることになり、シナプス前抑制が弱まることは、抑えていた情報が広がりやすくなるということを意味しています。



神経終末の電位の高さは、シナプス前抑制の強さを示すことから、シナプス前抑制の測定には興奮性試験を用い、神経終末の逆行性電位(ADV)を観察評価に用いられました。実験では、運動中のサルの脊髄にある手首伸筋の感覚神経終末を微弱に電気刺激して、手首伸筋の感覚神経束から逆行性電位を測定しています。

ADVが大きいとシナプス前抑制も大きいといえるため、これが運動中に変化するのであれば、サルが運動の局面に応じた感覚情報の調整をしていることが考えられます。脊髄刺激で誘発されたADVの大きさが運動遂行中にどのように変化するのか、動的運動(AM)、筋力維持(AH)、受動的運動(PM)に分けて解析されていました。


お問い合わせ・お申し込み