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老化による記憶力低下に関するたんぱく質を発見

記憶等をつかさどる脳の海馬で特定のたんぱく質が働かなくなると認知機能が低下することを、マウスの脳内にあるSetd8と呼ばれるたんぱく質量が減少していたことで発見することが出来たとの研修論文があった。このたんぱく質を応用すれば、認知症などの治療法開発につながるんじゃないかと期待してしまった。

記憶や学習に関わる脳の海馬には、新たなニューロン(神経細胞)を作り出す神経幹細胞がある。加齢に伴い数が減り、ストレスなども重なって新たに生まれるニューロンも減少することで、認知症などを引き起こすとされて来たが、その詳しい仕組みについては分かっていなかった。



マウスの成長段階ごとに海馬内の神経幹細胞で働くたんぱく質を詳しく解析した結果、加齢とともにSetd8量が減少していたことが分かった。

SETD8とは、標的のタンパク質にメチル基(CH3)を付ける酵素。細胞増殖と遺伝子の働きを調節している。生物の設計図でもあるゲノムDNAを取り巻くヒストンタンパク質をメチル化(様々な基質にメチル基が置換または結合)して、遺伝子の働きを抑制している。 このように活発な活動を行うための細胞の増殖を不可逆的に停止した状態を細胞老化と呼び、 細胞死とは異なる。



Setd8を作れなくすると若齢マウスでも神経幹細胞が減り、ニューロンの数も減少する。記憶力を試す実験の成績も低下し、老化状態に陥ることも確かめられた。一方、細胞レベルでは、たんぱく質を再び作れるようにすると、神経幹細胞の増殖能力やニューロンを生み出す能力が回復した。つまり老化によって機能を失った細胞を若返らせる可能性を示すことができたのだ。

元々頭が悪いのを良くすることは出来ないかも知れないが、加齢に伴う記憶力低下の謎を明らかにした面白い研究で、脳を若返らせる可能性⁈までもが出て来た訳だ。

今後は、認知症のマウスにSetd8を投与して記憶力が回復するか⁈等、目安でも見つかると良いね。


頭の速度制限⁈

心の中で色々考え感じているのに、それをリアルタイムで客観視出来たなら、どんなに素晴らしいことなんだろう⁈とよく思う。

例えば、元アスリート達は、人生の大半を運動ばかりに費やして来たこともあって社会経験が乏しいばかりか、勉強もしてこなかったので、社会に出ると全くダメで使いものにもならないのに、スポーツの成績が良かったりすると、自分は偉い、特別な存在なんだと勘違いして成長して来ている。礼儀が正しく根性があるだけじゃ、誰のお役にも立てないのだ。

自分自身も、この問題に悩まされてきた1人だ。偏差値約70の進学校から、目の遺伝のおかげで理系の大学に進めなかったことから、当時は、やむを得なく体力科学が学べる体育大に進学した。その所為で、就職面接時に履歴書をご覧になられた面接官に、貴方は礼儀が正しく根性があるに違いないと言われたのである。大学・大学院と優秀な成績で修了したのに、とてもガッカリさせられたものだ。



もし人の脳をコンピューターに直接接続し、高速で話したり書いたりできるインターフェースがあれば、今の自分になるのにこんなに時間も掛からなかったかも知れない。と失礼なことを考えたこともあった。しかし、もしこのインターフェースがあれば、逆にがっかりさせられたかも知れない。

それは、ある研究によると、人の記憶想起や決定、想像などの処理をするスピードは、毎秒約10ビットと非常に遅く、対照的に感覚系は毎秒約10億ビットの高速で情報を集めているとあったのだ。遅い思考と速い知覚が、人の脳が無数の思考を同時に行っているという幻想をもたらす一因になってしまったのである。



脳が記憶の想起や決定、想像などの処理をするスピードは毎秒約10ビットと遅い。人の脳が1度に1つのことを、しかもゆっくりとしかできないことを浮き彫りにしていた。つまり脳をコンピューターに繋げても電話で話す以上のスピードでコンピューターに伝えることはできない。

また心理学によると、人は感覚器からの情報のほんの一部を選んで知覚していて、人が注意を払えるのはその程度。それが意識的経験となって記憶に残るのである。

心理学や神経科学、技術、人間のパフォーマンスなど様々に異なる分野のデータを照合し、比較ができるようにしたところ、人の認知機能のスピードは毎秒約5〜20ビット、大まかな平均で毎秒約10ビットであると見いだし想像以上の遅い数値だった。これは人が一生に学習できる情報の総量が小さなUSBメモリーに十分収まるということだ。

これと対照的に、視覚や嗅覚、聴覚など人間の感覚系の処理速度はずっと速く、認知のスピードの約1億倍となり、思考と知覚に巨大な差があるのは歴然だった。



この逆説は、今後の考えを改めるのに良いきっかけとなったんだろうか⁈


ある痛みを脳波をコントロールすることで解消してみる⁈

前回、迷走神経を刺激することで、多くの疾患との関連性が高い慢性炎症の予防や抑制につながる可能性について述べましたが、文献を色々と調べてみますと痛みと脳波についての研究は、数多くあります。この度、ちょっと興味を示したのは、神経痛の根底にある異常な脳波を制御する方法で痛みを解消出来るか⁈を試した研究のお話です。

被験者に脳波検査用のヘッドセットを装着させて脳波の動きを可視化し、被験者が、リアルタイムでチェックしながら脳波のコントロールを練習する仕組みとなっています。まるでゲームのようなシステムですが、この作業にリラックスするコツなどを教えて、脳波を変える手助けを横から助言します。この臨床試験では、眼の角膜が慢性的に痛い症状を持つ患者4人を4週間かけて20回のセッションに挑戦させました。



その結果、4人中3人が、治療5週間後のフォローアップにて、劇的に痛みが低減したと回答したのです。ひょっとするとさらに研究が進めば、いつの日か⁈投薬・刺す・切るなどしなくて良くなるかも知れない。また強力な鎮痛剤として知られるロキソニンやカロナールの代替品になるかもしれません。



脳の他の部分に情報をどのように伝えているか⁈、特に痛みに関する知覚運動皮質への伝達が、視床の変化に関連していると考えられています。例えば、慢性的な痛みを感じる患者の脳波には、ゆっくりなθ(シータ)波、低いα(アルファ)波、速く高いβ(ベータ)波という特徴的なパターンが見られるのだそうです。

この異常な脳波を正常に正すよう直接働きかける治療法みたいなものが無いのだろうか⁈という疑問から、この度の研究に行き着いたそうです。厳密には角膜神経の慢性的な痛みの原因はハッキリ分かっていませんが、脳波の制御で痛みを低減するこの仕組みは、初期臨床試験では成功といえるかも知れませんね。

まだまだ症例が少ないので、プラッシーボ効果の気の所為⁈と言われるレベルかも知れませんが、これが慢性的な痛みの新たな治療法、または解消法となることを期待しております。


迷走神経を刺激する

迷走神経は、脳神経の1つで、人体で最も長く複雑な経路を持つ神経です。副交感神経として、心臓、肺、消化器系など、多くの内臓器官の機能を調節しています。また、感覚神経としても働き、咽頭、喉頭、外耳道などの感覚を伝えています。

同期のインド人から、運動・シャワー・瞑想によって迷走神経を刺激することで、多くの疾患との関連性が高い慢性炎症の予防や抑制につながる可能性があることを教わりました。我々の行う神経筋制御論に沿った運動法を指導している際にも幾度と確認されましたが、反射を伴う動作によって身体の動きのキレやしなやかさを取り戻すことで、神経系の不具合をリセットさせることができ、炎症を抑える効果が期待出来るのです。



1日おき、もしくは2日おきに運動する
週4〜5回ほど、1回あたり30〜45分かけ神経筋制御論に沿った運動(お散歩・やまおく体操)を行っています。



運動が健康に良いことは誰もが知っているが、その健康効果のメカニズムについては科学者たちもまだ完全には理解していません。例えば、定期的にお散歩を習慣にすると、安静時の心拍数が下がり、心拍変動(拍動の間隔の変動幅)が高くなることがわかっている。これは心臓が効率よく機能していることを示している。迷走神経には心拍数を抑える働きがあることから、この効果は運動によって迷走神経の活動が高まるためではないかと考えられている。しかし、この関連性を確実に証明するには、さらなる研究が必要です。

安静時の3〜4.5倍の運動を定期的な継続によって必要以上の筋細胞を保持維持し、代謝機能や心臓血管系の衰えを予防することが大切です。





冷たいシャワー
入浴終わりに2~3分間だけ冷水を浴びます。そうすることで身体の闘争・逃走反応が引き起こされ、炎症を抑制します。



冷水を浴びると最初は心拍数が上昇するが、その後、副交感神経系が活性化され、呼吸や心拍数が落ち着くことが研究で示されています。

このことは冷水の刺激が迷走神経を活性化している可能性を示していますが、抗炎症作用についてはまだ明らかにされていません。




瞑想
運動してシャワーの後、10分間の瞑想を行います。



瞑想の数多くの研究でも、瞑想を行った人々は対照群と比べて炎症を示す血中のバイオマーカーの数値が低かったことが明らかになりました。瞑想によって炎症が軽減する可能性が示される文献も多くありますが、さらなる検証が必要です。

瞑想を繰り返すことで瞑想するのが上手くなる頃には、迷走神経の活動を高め炎症を抑える可能性が出て来ますが、未だ科学的根拠は見つかっていません。





迷走神経が健康にもたらす影響は、それだけにとどまらないことを示す文献が、他にも幾つも見つかっています。


学んだことが身につくときの脳の変化について…

記憶とは、学習の延長線上の現象です。
学習された情報が、どのように記憶として脳内に残されてるかについて、実は、そんなに分かっていませんでした。

私達にも長年の想いがあり、ある反復練習をし続けることによって身体が運動を覚える仕組みを知りたいと思っていたところですが、某大学研究班が、マウスを使った実験を通じて大脳皮質の神経回路の構造変化を捉えることに成功されていましたので、その経過をご紹介しつつ、運動指導者としての私の考えをも記しておきたいと思います。



脳では、神経細胞間で情報が複雑にやり取りされ、巨大なネットワークを形成されています。特に神経細胞間で情報を伝達する結合部はシナプスと呼ばれ、学習や記憶に非常に重要な働きをしていると考えられています。

実際に、マウスに特定の課題(運動トレーニング)をさせると、第一次運動野(大脳皮質の中の運動を担う領域)で、新たなシナプスが形成され、図のように神経回路が変化していることは分かっていました。

神経細胞間の情報伝達において、シナプスの強さが一時的に変化し、後に元に戻る性質のことをシナプスの可逆性と言います。これは、経験や学習によって脳が変化していくシナプス可塑性の一側面として理解出来ます。しかし、それを神経回路の変化として明らかにした研究が少なく、どの領野からの情報が、学習や記憶に重要なのかなど、その詳細も知られていませんでした。

そこで、学習過程において変化するシナプス結合を明らかにすることで、例えば自転車の乗り方や楽器演奏などの動作が、練習することで上達し、徐々に無意識に行えるようになる脳内メカニズムが明らかになるものと考えられました。



図の左側の学習前のシナプスは、GABAとグルタミン酸が分泌され興奮と抑制のバランスを取っています。図の真ん中の学習を始めると一時的にGABA分泌が減り、AMPA受容体のシナプス移行によってシナプスの機能と伝達効率を変化させます。図の右側の学習し続けると、GABAの分泌量は、元に戻り、グルタミン酸の分泌量が増え、興奮と抑制のバランスを保っています。

GABA(ギャバ)とグルタミン酸はどちらも脳内の神経伝達物質ですが、GABAは抑制性、グルタミン酸は興奮性というように、機能は真逆です。GABAはグルタミン酸から合成されますが、脳内で物質交換を制限する血液脳関門を通過できないため、食事やサプリメントで直接摂取しても脳の働きを助けることはできません。



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